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2026.6.2お役立ち記事
家族信託は「守り」だけじゃない。「活かす信託」という考え方

 

「家族信託って、認知症になったときの備えなんでしょ?」

そう思っている方が多いのですが、実務をやっていると「守りだけじゃ足りなかった」というケースに、かなりの頻度で出てきます。

親が高齢で、老朽アパートや使いみちのない土地を持っている。本人も「どうにかしたい」とは思っている。でも年齢的に自分では動けないし、かといって子どもが勝手に売ったり建て替えたりはできない——その間にも、固定資産税と管理費だけが毎年消えていく。

こういう状況は、「資産凍結に備えた信託(守りの信託)」では解決できません。必要なのは、「活かす信託」という発想の転換です。

この記事では、家族信託の設計における「守り」と「活かす」の違いを整理し、どういう家族にとって活かす信託が必要なのかをお伝えします。

 


 

家族信託(民事信託)とは

家族信託(民事信託)とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理や運用を託します。

場合によっては処分の権限を預け、本人や指定した家族(受益者)のために使ってもらう仕組みです。

多くの場合、委託者と受益者は同じ人物で、たとえば「父親が財産を息子に託し、その父親自身が利益を受ける」形になります。

家族信託の最大の特徴は、委託者の判断能力が低下した後は勿論のこと、頭はしっかりしているが、体力や気力が追い付いていない等の場合でも、受託者が財産を動かせる点にあります。成年後見制度(執筆現在、後見制度を補助人に統一する等の制度の見直し中です)と異なり、家庭裁判所への報告義務もなく、家族の手で柔軟に管理できるのが強みです。

委託者の思いを伝え、信託契約書に書かれた内容によって受託者が法的に出来る様にします。ここが、家族信託の設計が大切だと言われる理由です。

 


 

信託の設計には「守り」と「活かす」の2種類がある

家族信託を設計するうえで、まず目的を整理する必要があります。大きく分けると、「守りの信託」と「活かす信託」の2種類があります。

守りの信託:現状を維持するための設計

守りの信託の目的は、シンプルです。設計段階の基礎的であり、必ず盛り込む内容になります。

親の判断能力が低下したとき、生活費・介護費・医療費を受託者が管理・支出できる状態を作っておく。銀行口座の凍結や不動産取引の停止、いわゆる「資産凍結」を防ぐのです。

・判断能力が低下しても、受託者が本人の生活費・介護費を継続して支出できる

・銀行口座の凍結や不動産の売却停止を防ぐ

・成年後見(現在見直し中)のような家庭裁判所への報告義務がない

この機能は、どんな信託でも必ず盛り込むべき土台です。老後の生活費の確保という点で、守りの設計を外すことはできません。

ただ、守りの信託でできるのは「今ある資産の状態を維持すること」だけです。今すでに問題を抱えている不動産をどうにかしたい、という話には応えられないのです。

 


 

活かす信託:資産の形や状態を変えるための設計

活かす信託は、一言で言うと「本人がやりたい・やるべきなのに、年齢や体力の問題で自分では動けないことを、受託者が代わりに実行できるようにする」設計です。

守りが「現状を維持する」ためのものだとすれば、活かすは「資産の形や状態そのものを変える」ためのもの、という整理になります。

具体的には、受託者に次のような権限を持たせます。

・不動産の売却・処分(介護施設や生活費、信託契約の範囲内で実行できる)

・建て替え・大規模修繕(老朽アパートの再生)

・借入と担保設定(建て替え費用の調達。受託者名義で借入し、信託財産を担保に)

・不動産の貸家化・用途変更(使っていない土地・建物を収益化する)

これらはすべて、信託契約書(公正証書)に明記していなければ受託者は動けません。未来予想をして備えたり、資産を活かしたり出来る様にするのです。

 


 

「負動産」という現実

活かす信託が必要になる背景として、「負動産」の問題があります。

親にとっては「先祖代々の土地」「苦労して買ったアパート」でも、子どもから見ると話が変わってきます。

毎年かかる固定資産税、空室が続く老朽アパートの維持費・修繕費、農地や市街化調整区域の土地の固定費(収益はほぼゼロ)、そして将来の相続時に「自分が引き継ぐことへの不安」——こういったものが積み重なると、その不動産は「資産」ではなく「負動産」になっていきます。

親世代と子世代で、同じ不動産の見え方がここまで違う、というのは実務でも本当によく見る光景です。

そしてこの問題、成年後見制度(現在見直し中)では解決できません。後見人の使命はあくまで「本人の財産を守ること」なので、積極的な資産の活用には制限されています。

家族信託の活かす設計は、この問題を正面から扱える手段なのです。

 


 

こんな家族に「活かす信託」は必要です

以下のうち、ひとつでも当てはまる方は、守りだけでなく活かす設計を検討する価値があります。

親が高齢で、自宅以外に不動産(アパート・土地・別荘地など)を持っている

老朽アパートの修繕・建て替えを、なんとなく先送りし続けている

親の名義でリゾート地や不要な不動産があり、固定資産税と管理費に疲れている

「成年後見だと財産を積極的に動かせないのでは」と感じている

親の介護費用がいくらかかるか不安で、今のうちに現金化しておきたい

こういう状況を放置したまま親の判断能力が低下してしまうと、何も動かせなくなります。それが、いちばん避けたいシナリオです。

守りと活かすは、どう違うのか、整理すると

・目的:守りの信託は「資産の現状維持・生活費の確保」。活かす信託は「資産の形・状態・収益性を変える」。

・受託者の主な役割:守りの信託は「生活費・介護費の管理・支出」。活かす信託は「売却、建て替え、借入、賃貸化の実行」。

・設計の複雑さ:守りの信託は「比較的シンプル」。活かす信託は「資産の内容・計画によって変わる」。

・こんな場合に必要:守りの信託は「すべての信託の土台として」。活かす信託は「不動産や資産を積極的に動かしたい場合」。

 

この2つは「どちらか一方を選ぶ」ものではありません。

守りを土台にしながら、資産の内容や将来の計画に応じて活かす設計を組み込んでいく、というのが実務での基本的な考え方です。

 


 

活かす信託が機能するには、設計段階が勝負

ここまで読んでいただいてわかる通り、活かす信託の肝は「信託契約書に何を書くか」です。

不動産の売却権限、建て替えや修繕の決定権限、借入権限、担保設定権限——これらが漏れなく書かれていなければ、受託者はいざというときに手が出せません。「後から追加すればいい」は通じません。信託は、組む時点の設計がその後のすべてを決める仕組みです。

資産の種類や将来の計画によって、必要な条文の数も内容もかなり変わります。現金だけなら比較的シンプルですが、収益不動産が絡むと、借入・建て替え・売却それぞれの場面に対応した権限規定が必要になってきます。

 


 

成年後見制度との比較

・不動産の売却:活かす信託(家族信託)では「受託者が実行可」。成年後見制度では「家裁の許可が必要」。

・建て替え・借入:活かす信託(家族信託)では「契約書に記載があれば可」。成年後見制度では「基本的に不可」。

・積極的な資産運用:活かす信託(家族信託)では「受託者の裁量で対応可」。成年後見制度では「本人の財産保護が原則なので制限あり」。

・動ける主体:活かす信託(家族信託)は「受託者(家族)」。成年後見制度は「後見人(裁判所が決めた第3者)」。


 

まとめ

家族信託は、認知症対策・資産凍結防止のためだけの仕組みではありません。

守りの信託を土台にしながら、活かす信託の設計を加えることで、固定コストがかかり続ける負動産を整理し、老朽アパートを建て替えて収益を改善し、親の介護費用の原資を作り、相続財産の価値を上げることができます。

大事なのは、親がまだ元気なうちに、今まで放置してしまった資産管理の見直しをすることです。判断能力が低下してからでは、信託契約そのものが結べなくなります。「まだ大丈夫」と思っているうちに、家族で一度話し合ってみてください。

 

 

次の記事では、実際のケースをもとに「活かす信託」がどう機能したかを具体的にご紹介します。

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